【ネタバレ】映画『アリスとテレスのまぼろし工場』の謎を解決したい

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こんばんは、なつわです。こちらの湯では、2023年9月15日に公開された、岡田磨里監督最新作『アリスとテレスのまぼろし工場』について、

  • 終盤の睦実のセリフの意図が分からなくてモヤモヤする!
  • 五実の行動の意味をもっと理解したい
  • 結局、どういう時系列なんですか…?

といった疑問や謎を解消すべく、めいっっぱい頑張って考察をする、という内容になっております。

ネタバレを含みますので、未視聴の方は是非とも、ご鑑賞後に本文をお読みください!

それではさっそくまいりましょう。

『アリスとテレスのまぼろし工場』あらすじ

予告動画

©新見伏製鐵保存会

アリスとテレスのまぼろし工場』は、製鉄所を中心に据える架空の地方都市「見伏」が舞台で、ある日製鉄所が大規模な爆発事故を起こし、それ以来、時が止まり町の外に出ることもできなくなった、というところから物語が始まります。

主人公は菊入正宗(きくいりまさむね)・14歳で、同級生・佐上睦実(さがみむつみ)に導かれ訪れた製鉄所内の立入禁止区域で、狼のような少女・五実(いつみ)と出会い、3人の関係性を軸に世界に変化が起き始めるというストーリーです。

MAPPA制作の美麗な作画、煙の演出などに見られる劇場版ならではの迫力あるシーン、声優さんたちの魂のこもった演技など、魅力は語りつくせないのですが、その反面、「分かりにくかった」「ストーリーが複雑」といった声も聞かれますよね。

私も劇場で見ている最中は「???」となる場面もいくつかあったのですが、鑑賞後に頭の中を徹底的に整理した結果、分かりにくかった箇所も理解することができました。

『まぼろし工場』5つの謎

謎1「正宗の父」

最初の謎は、「正宗のお父さん、死んだの?失踪したの?」です。

©新見伏製鐵保存会

これは製鉄所の事故によって発生したまぼろしの世界(「まぼろし世界」と呼びます)の時系列が明示されていないために生まれる疑問ですね。私もだいぶ混乱しました。

まず、「まぼろし世界」は事故発生で生まれた世界なのですが、時系列としては

製鉄所事故を0日目とし、そこから永遠に時の進まない日々が繰り返されている

と考えると分かりやすくなります。
正宗の父は、事故発生時は夜勤で製鉄所にいたため、そこで死亡していることが劇中で語られています。つまり「現実世界」では、正宗パパは事故当日に死んだことになるわけです。

ただ、事故によって発生した「まぼろし世界」では事故で死んだ人も生者として転生(?)されているため、父は事故以降も「まぼろし世界」内で生存していたことになります。

ここでさらに混乱の種になるのが、“父の日記”でしたね。死んだ?失踪した?はずの父がなぜ日記を書いていたのか?と訳が分からなくなるのです。

これについては、以下のように時系列を整理すると納得できそうです。

  • 事故当日(「まぼろし世界」の0日目)
  • ⇒佐上らと共に、世界や製鉄所の秩序を守るために奮闘する
  • ⇒電車のなかで少女(のちの五実)を発見する(この前くらいから日記をつけ始める。真相に気づいており、現実では自分が死んでいることもわかっている)
  • ⇒家からいなくなったり、ふらふらとする父
  • ⇒成長する息子(正宗)の姿を見て自分も「変わりたい」と考えたため、「まぼろし世界」から排除される

ここからは感想ですが、この正宗の父…とても印象的でした。父は事故当日に死亡しているので、本来正宗の子、つまり孫に会うことはできませんでした。
ですが「まぼろし世界」が生まれたことで、存在すら知らなかったはずの孫と出会うことができた、というのが素敵でした。

そして父は息子・正宗が絵に没頭しながら成長する姿を見て、これまで変化してこなかった自分を悔い改め、変わろうとします。その結果、父はその世界から消えてしまうことになるのですが、このエピソードが寂しいながらも前向きに描かれていたのが心に残りました。
きっと父は、「変わろう」と思ったことに後悔などしていないことでしょう。

謎2「睦実が五実にした“両想い宣言”」

続いての疑問は、「睦実はどうして五実に“両想い宣言”をしたの?」です。

©新見伏製鐵保存会

物語終盤、鉄道の上で睦実が五実を見送るシーンで、睦実は「正宗の心は私のもの」と、はっきりと正宗との相思相愛を宣言しましたね。私ははじめ、「いや、このタイミングでそこまで言わなくても…(五実がカワイソウや…)」と感じてしまったのですが、これもよくよく整理していくと違った面が見えてきました。

睦実のあの言葉は簡単に言えば、
 ①娘が、父への恋愛感情をきっぱりと捨てることができるようにしたかった
という説明になるのですが、事はそう単純ではありません。やんごとない事情が絡んでいるのです。
それは、

②五実が自分を母と認知してしまうと、いらぬ混乱を与えることになってしまう(どう考えても年齢がかみ合わないので、五実はその状況を呑み込めない)ため、睦実は最後まで自分が母親だということは明かさないように努めていた。
 娘の今後のために父への恋愛感情をあきらめてほしいが、かといって“母親として諭すことはできない”ため、あくまでも“同年代の友人”として、失恋を経験させ諦めさせるための言葉を選んだ結果、あのような表現になった。

ということだと考えています。
こう考えると、「そ…そういう事情があったんすね…ま、まぁ、だったらあんな言い方でもしないとダメだったんだろうね…」と睦実の言葉を許す(←おい)ことができます。

そしてもう一つ付け加えたい考察があります。睦実があんなにも正宗への愛をしつこく語った理由、それは… 

③『お母さんとお父さんはこれから先、絶対に結ばれて、必ずあなたを生みます。だから安心して元の世界に帰ってね私にとってあなたはとても大切な存在なのよ、必ずまた会えるよ。』と伝えたかった。

ここまで考察すると、あのセリフにいたった睦実の心情がより理解できる気がしました。
ふ、、深い愛情です…。もう一度劇場でこのセリフを嚙み締めたくなります。

謎3「盆祭り」

続いての謎、「盆祭りの時系列とか出来事。ぐちゃぐちゃで分からんす…」です。

©新見伏製鐵保存会

物語が進むにつれて混乱してしまうのですが、作中で盆祭りは2回登場しています。

  • 1回目は、菊入沙紀(のちの五実)が行方不明(神隠し?)になってしまう祭りの日。
  • 2回目は、沙紀がいなくなってしまった現実世界で、沙紀が買ってほしいとおねだりしていた屋台のおもちゃを見たことで、正宗が失踪した娘(沙紀)のことを思い出し悲しんでいる祭りの日

です。
物語の終盤で花火がバンバン打ちあがっていた現実世界は、この「2回目の祭り」の年ということになります。
物語中盤で、正宗@「まぼろし世界」が家のなかにできた亀裂の向こうで、

現実世界の大人になった正宗と睦実が、新聞を見ながら「今年はやらないと思ってたのに、盆祭り開催されることになったのね」と会話をしている。

といった場面を目撃しています。
 これは時系列的には、

  • 【①1回目の祭り(沙紀失踪)】
  • ⇒【②時が止まったように悲しむ正宗と睦実】
  • ⇒【③数年がたち、盆祭り開催の知らせを見る正宗と睦実。だが娘を失ったことを思い出し、悲しい表情をする二人】
  • ⇒【④盆祭り(作中での2回目)当日】

 という感じで、
家の亀裂から正宗が見た現実は、③で、その数日後に④の日が訪れ、それが五実を現実世界に送り届ける日という流れになっている、ということだと思います。

©新見伏製鐵保存会

私は、本作の世界は基本的に、“「現実実世界」と「まぼろし世界」の時間のスピードは同じ”というふうに理解しています。

まぼろし世界」で一日が経過すると、「現実世界」でも一日が経過するといった感じで、
同じ速度で時間は経過しています。
(まぼろし世界は「体感的には」同じ日or同じ季節をひたすら繰り返しているわけですが、相対ではなく絶対的時間も同じように進んでいるという解釈です)

そのため、物語中盤で正宗が③を目撃したあと数日で④になっているというのも、時系列的に説明が付くというわけです。

ちなみに、「沙紀はどうして「まぼろし世界」に行くことになったのか?」という疑問もよく目にしました。このあたりは深くツッコむべき内容ではないかもしれませんが、一応私の解釈は以下のとおりです。

沙紀が現実世界から消えたのは、ある盆祭りの日の夜でした。
日本では「盆」は、<あの世>と<この世>が通じ合う日として考えられていますから、「まぼろし世界」を<あの世>とすると…
<あの世>への入り口が開いている盆の日に両親とはぐれ、<この世>側で手を引いてくれる大人がいなくなったことで、<あの世>である「まぼろし世界」に連れて行かれてしまった
のだと思います。

さて、ここからは感想です。
この「2回目の祭りの日」に、睦実の姿が見えないというのが個人的には胸を締め付けられました。
娘を失った悲しみで夫婦がすれ違い、睦実は“娘を思い出してしまうから”と、祭りには行きたがらず、正宗は娘との記憶に触れるためか、あるいは娘がいなくなった祭りにもう一度行けば、娘が戻ってくるのではないかと考えたのか、…真相は分かりませんが、そのような複雑な心境で祭り会場を訪れている様子が描かれていました。

最終的な結果について作中で描かれてはいませんが、きっとあの2回目の祭りの夜に、正宗は娘と再会できたのだと信じています。そして娘を連れて家に帰り、睦実とも感動の再会を果たし、幸せな家庭がもとに戻ったことでしょう。
ラストシーンで「ママ」が心配性だということが沙紀の口から語られていますが、この「ママ」が他の誰でもない睦実であることは、1回目の祭りで愛する我が子を見失ってしまった彼女の後悔の念を考えれば火を見るよりも明らかといえますよね。

謎4「現実世界の時系列」

続いての謎は、「現実世界って結局、どんな時系列になってるんだい?」です。

©新見伏製鐵保存会

前項での「「現実実世界」と「まぼろし世界」の時間のスピードは同じ」という仮説も加味すると、製鉄所事故後の「現実世界」における見伏の時系列は、以下のようになっていると考えています。

  • 1991年:製鉄所の事故/正宗・睦実:中学生(14歳
  • 1991年以降:製鉄という主力産業を失い、衰退していく見伏
  • 2000年:正宗・睦実:結婚、沙紀出産(23歳?)
  • 2005年:正宗・睦実:娘と祭りへ(28歳?)/沙紀:失踪(5歳?)/<沙紀、「まぼろし世界」で中学生睦実に出会う>
  • 2005年以降:悲しみに暮れる正宗・睦実/見伏はさらに衰退していく/<沙紀、「まぼろし世界」で中学生睦実に8年ほど育てられる。沙紀だけが年齢を重ねていく>
  • 2013年:久しぶりに祭りの開催。会場へ行く正宗36歳?)/<沙紀(五実)、「まぼろし世界」の中学生正宗に恋をする(13歳?)>
  • 2014年以降:見伏は完全に閉鎖し、廃墟となる
  • 20XX年:現実世界に戻り成長した沙紀(五実)が閉鎖された見伏を訪れる

 (推察もあるので正確ではないと思います!)

ポイントとしては、「「現実世界」の見伏は、製鉄所の事故後、すぐに消えたわけではない」というところでしょうか。その前提に立つと、祭りの時系列とも整合性が取れるわけです。
細かな年号は当てずっぽうですが、順序としてはこれでだいたい合っているのではないでしょうか。

「製鉄所事故後、見伏はすぐに閉鎖されたわけではない」というのは、正宗のおじいさんの「この世界は、見伏がいちばん褒められたい時代を神様が残そうとしたものだと思う」という解釈がヒントになりました。
“事故で見伏がすべて無くなった”のではなく、事故の後に「良くなかった」時代が見伏にはあったということです。
(脱線しますが、おじいさんは事故の後も亀裂の隙間から「現実世界」を見続けていて、衰退していく見伏のことを分かっていたのだと思います。初登場シーンで政宗ママに言われていた「また庭の水道出しっぱなしにしたでしょ!」というセリフも、おじいさんが真相に気づいていたことを示す何らかの伏線なのかな…と勘ぐっているのですが未だにわかりません。)

知ってる人がいたら教えてください……(笑)

なお、ラストシーンの沙紀は18歳くらいの年齢だと思いますので、ラストの年は、

  • 2013年(仮)に現実世界に戻った時に、13歳(仮)のままで戻っていたとしたら、「2018年くらい
  • 2013年(仮)に現実世界に戻った時に、5歳(仮)の状態に戻ったとしたら、「2026年くらい

という感じだと思います。後者の場合、正宗&睦実は49歳くらいということになりますね。その頃の二人の姿も見て見たかった…!

謎5「五実が正宗と睦実に最初にとった行動」

それでは感動のグランドフィナーレ、最後の謎は「五実が正宗と睦実に最初に取った行動」です。

「まぼろし世界」での「狼少女」こと五実が、正宗と睦実に最初に出会ったときの行動に注目すると、より物語の深みに気づくことができましたので、最後にこの話をシェアしたいと思います。

五実(菊入沙紀)は「まぼろし世界」にやって来てから、中学生姿の正宗と睦実にそれぞれ出会っていますが、彼らが自分の父と母だということに気づくことはありませんでしたよね。
ですが二人に初めて会ったとき、五実はどちらに対しても同じ行動をしています
思い出してください、それは、

正宗(睦実)に、抱きつく

です。

©新見伏製鐵保存会

正宗には物語序盤で、飛びつくように抱きついており、終盤の回想シーンで睦実との初対面の様子が描かれていましたが、ここでもやはり五実は睦実のスカートをきゅっと握るように抱きついています

沙紀(五実)自身の時間軸で考えると、

  • 祭りの日にお父さんとお母さんがいなくなって、気が付くと知っている人が誰もいない世界に来てしまった
  • 不安に駆られる中、おそらく血のつながりを本能的に感じた正宗と睦実に対しては心を許し、そして祭りの屋台の前で置いて行かれてしまった寂しさを埋めるように、父と母の愛情とぬくもりを求めて、抱きついた

ということなのだと思います。私は、2つのシーンを次のように解釈しています。

  • 中学生睦実との初対面シーン:迷子の子供が母親と再会した時に、泣きじゃくるのをこらえながら母の体にしがみつく動作
  • 中学生正宗との初対面シーン:何年も会えなかった父親と久しぶりに再会できたに、喜びが爆発するように飛びつく動作

1回目の祭り当日と「まぼろし世界」での初対面シーンをこのように繋ぎ合わせて考えると、涙なしには見ることができない素敵な場面になっているわけですよね。

私、こういうの弱いんです。物語終盤の、睦実の回想シーンでこれに気づいたのですが、涙が止まらなくなりました…。沙紀、がんばったね…!

まとめ

冒頭にも書きましたが、『アリスとテレスのまぼろし工場』は複雑なストーリーが絡み合っているため、理解するのが難しい場面もいくつかあります。ただ、その裏には監督が込めた大切な想いがあるように感じました。

そういった細かな描写を余すことなく体感することで、より深く物語を楽しめるようになり、この作品のことがさらに好きになりました。
一言でまとめると、「アリスとテレスのまぼろし工場、良い映画だわ!」ということです。

この作品の魅力がさらにたくさんの人に伝わるといいなと思い、こちらの記事を書かせていただきました。

中島みゆきさん主題歌の歌詞付PV

©新見伏製鐵保存会

長い文章を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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